パストラーレ
pastorale [伊]/ pastorale [仏]/ pastorale [英]/ Pastorale [独]

 英語・仏語で「パストラル」とも。
 次の二つの意味がある。

  1. 田園曲……キリスト誕生時の羊飼いの言い伝えから、羊飼いの音楽を模したクリスマスを祝う曲。バグパイプ風の長いドローン (保続低音) の上に、ショーム、オーボエ、笛などが6/8拍子または12/8拍子の舞曲風旋律を流す。
  2. 牧歌劇……神話的な田園を舞台に繰り広げられる牧童たちののどかな恋物語。オペラの先駆けとなる様々な要素を含む。ルネサンス末期 (16世紀後半) のイタリアで大変な流行を見た。17世紀にはフランスで発達。

 「パストラーレ」と特にイタリア語を使う時は、2番目の「牧歌劇」の意味で使われることが多い。

 さて、問題はその2番目の「パストラーレ」である。
 なぜ、こんな他愛のないものがもてはやされたのだろうか?

 1453年、ビザンツ(東ローマ)帝国がオスマン・トルコ帝国に滅ぼされ、大量のギリシア難民がイタリアに漂着した。これがきっかけで、イタリアではにわかにギリシア=ローマの古典研究が盛んになった。
 イタリア貴族の間では、古典文学の世界を模倣する風流趣味が流行し、ローマ古典演劇も復活上演された。

 古典世界への憧れが高まる中、古代ギリシアの田園を舞台にした文学作品が一大ブームとなる。甘美な哀愁漂う田園詩、牧歌詩は、えらく貴族たちの気に入り、15世紀末期以来多くの亜流を生み、やがて16世紀後半にフェラーラ宮廷で「パストラーレ(牧歌劇)」を生むに至るのである。

 ここで舞台となる田園は、現実の雑草の生えた畑ではなく、この世に存在しない理想郷 (「アルカディア」) だ。
 主役の牧童は、生活の苦労とは一切無縁の、恋に悩むだけの存在。登場人物の名も決まっていて、男ならミルティッロ、ティルシ、アミンタなど、女の方はフィッリ、アマリッリ、クローリ、シルヴィアなど。さらに自然の精ニンフ、牧羊神パン、いたずら者の半羊神サテュロスなどの次元の低いギリシア神話の神々も登場する。

 パストラーレはフェラーラのアルフォンソ公の宮廷を中心に盛んに上演された。中でもタッソーの『アミンタ (1573上演) と、グァリーニ『忠実な羊飼い』 (1581〜1590上演) は、パストラーレの代表的傑作として絶大な人気を誇った。

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更新日:2002/04/01

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